単純性股関節炎
【単純性股関節炎について】
「朝起きたら急に足を引きずるようになった」「幼稚園や学校で歩くのを嫌がる」— お子さんが突然このような症状を見せたら、親御さんは不安になることでしょう。
特に3歳から8歳くらいの幼児・学童期に発症しやすいのが、「単純性股関節炎(たんじゅんせいこかんせつえん)」です。これは、比較的軽度で予後が良好な病気ですが、緊急性の高い他の重篤な疾患と見分けることが非常に重要です。
本記事では、単純性股関節炎の具体的な症状、診断の流れ、そして最も大切な「安静」を保つための対処法について、整形外科専門医が詳しく解説します。
【単純性股関節炎とは? – 小児に多くみられる一過性の関節炎】
単純性股関節炎は、股関節の関節包(関節を包む袋)の中に一時的に炎症が起こり、水(関節液)が溜まることで痛みが生じる病態です。
発症しやすい時期と症状の特徴
- 好発年齢
- 突然の発症
- 特徴的な症状(跛行)
3歳から8歳くらいの子どもに最も多くみられます。
症状は突然現れることが多く、親御さんが驚かれるケースがほとんどです。
・股関節や膝の痛み: 股関節だけでなく、膝の痛みとして訴えることも多く、診断を難しくする一因となります。これは、股関節の痛みが神経を通じて膝周辺に放散するためです(放散痛)。
・歩行障害(跛行/はこう): 痛みのために、足をかばって引きずるような歩き方になります。ひどい場合は、痛くて歩くことや立つことを拒否するようになります。
発症のきっかけは「風邪」?
この疾患は、明確な原因が不明である「特発性」とされていますが、多くの場合、発症の数日前から数週間前に、風邪(上気道炎)などの感染症にかかっていたという既往がみられます。これは、ウイルスの感染や炎症反応が引き金となって、一時的に股関節に炎症を起こしていると考えられています。
診断と他の疾患との見分け方
単純性股関節炎の治療は「安静」ですが、他の重い病気を見逃さないための診断が最も重要になります。
整形外科での診断の流れ
- 1.問診と触診
- 2.X線(レントゲン)検査
- 3.超音波(エコー)検査
- 4.血液検査(必要に応じて)
痛みの部位、発症時期、転倒や怪我の有無、そして先行する風邪などの症状について詳しく伺います。股関節の動き(可動域)を慎重に確認します。
単純性股関節炎の場合、骨には異常が見られないのが特徴です。レントゲン撮影は、骨折やペルテス病、化膿性股関節炎など、緊急性が高い他の重篤な疾患ではないことを確認するために必須です。
X線写真で異常がなくても、超音波検査を行うことで、関節の袋の中に水(関節液)が溜まっている状態(関節水腫)が確認できれば、本疾患の可能性が高まります。
炎症の程度(CRPなど)を確認し、特に化膿性股関節炎(細菌感染による炎症で緊急手術が必要な場合がある)などの重い病気を除外するために行われます。
【単純性股関節炎の治療と予後 – 「安静」が最大の治療】
単純性股関節炎は、適切な安静を保てば、ほとんどのケースで短期間に自然に治癒します。
治療の原則は「絶対安静」
この疾患の最も効果的な治療法は、股関節への負担を極力避け、安静にすることです。
- 期間
- 活動制限
通常、1週間から10日程度の安静で、痛みや歩行障害は速やかに改善します。
痛みがある間は、スポーツはもちろん、登園や通学も控え、自宅で安静に休ませることが大切です。日常生活においても、股関節から膝関節にかけて負担のかかる動作(ジャンプ、走る、片足立ちなど)は避けましょう。
補助的な治療法
痛みが強い場合や症状に応じて、以下の補助的な治療が選択されることがあります。
- 薬物療法
- 牽引療法
- 理学療法(リハビリテーション)
痛みを和らげるために、消炎鎮痛剤が処方されることがあります。
股関節の炎症が強く痛みがひどい場合、一時的に股関節を引っ張る(牽引する)ことで、関節の圧力を下げて痛みを軽減させる処置を行うことがあります。
痛みが引いた後、日常生活への復帰をスムーズにするために、軽いストレッチや筋力維持のための指導を行うことがあります。
予後(経過)について
単純性股関節炎は、通常、後遺症を残さず完全に治癒する病気です。しかし、まれに痛みが改善した後も症状が長引いたり、再度症状が出たりするケースがあります。症状が長引く場合は、前述したペルテス病などの他の疾患ではないか、再度詳しく検査を行う必要があります。
【まとめ:お子さんの「痛い」を見逃さずに】
お子さんが「足の付け根が痛い」「歩けない」と訴えた場合、親御さんとしてはとても心配になることでしょう。しかし、単純性股関節炎は、他の重い病気が否定できれば、過度に心配する必要のない、経過良好な病気です。
最も大切なのは、自己判断せずに早めに整形外科を受診し、重篤な疾患ではないことを確認すること、そして診断がついた後は、医師の指示に従い、痛みがある期間はしっかりと安静にさせることです。
当院では、小児の股関節疾患の正確な診断に不可欠なX線検査や超音波検査を行い、お子さんとご家族に寄り添った適切な治療とアドバイスをご提供しています。不安を感じたら、すぐに当院にご相談ください。

