大腿骨頸部骨折
【大腿骨頸部骨折について】
大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)骨折は、特に高齢者にとって「転倒による怪我」の代名詞とも言える重大な疾患です。この骨折は、単なる体の痛みだけでなく、その後の生活の質(QOL)を著しく低下させ、最悪の場合「寝たきり」へと直結してしまう危険性を持っています。
本記事では、整形外科の専門的な視点から、大腿骨頸部骨折のメカニズム、見逃してはいけない初期症状、そして寝たきりを防ぐための最新治療法と、最も重要な予防策について詳しく解説します。
【大腿骨頸部骨折とは? – 転倒で命に関わる重大な怪我】
大腿骨は、太ももの骨であり、人体で最も長く頑丈な骨です。その大腿骨の上部、骨盤と関節を形成している部分を股関節(こかんせつ)と呼びます。
骨折しやすい部位とその理由(大腿骨頸部とは)
股関節の付け根部分には、大腿骨の骨頭(ボール状の部分)を支えるために、大腿骨が急な角度で曲がっている大腿骨頸部という箇所があります。
この曲がっている構造(股関節の構造)は、私たちの体重を支え、効率よく歩行・運動するための優れた仕組みですが、転倒や転落時に外力が集中しやすいという弱点を持っています。特に、横からの衝撃や尻もちをついた際に、この大腿骨頸部に力が集中し、簡単に骨折してしまうのです。
主な原因は「骨粗鬆症」と「転倒」
大腿骨頸部骨折の最大の原因は、骨粗鬆症によって骨がもろくなっていることです。骨粗鬆症は、骨密度が低下し、少しの衝撃でも骨折しやすくなる病気で、特に閉経後の女性や高齢者に多く見られます。
骨粗鬆症で骨が弱っている人が、屋内外でつまずく、滑るなどの転倒事故を起こすことで、大腿骨頸部骨折は発生します。高齢化社会において、この骨折は急増しており、社会的にも大きな問題となっています。
【見逃せない!大腿骨頸部骨折の初期症状と診断】
骨折が疑われる場合、迅速な対応がその後の予後を左右します。
典型的な症状(股関節の激痛、動かせない)
大腿骨頸部骨折が発生した場合、ほとんどのケースで以下の症状が現れます。
- 1.股関節部(脚の付け根)の激しい痛み
- 2.起立・歩行の不能
- 3.患肢の変形や短縮
骨折した箇所に強い痛みが生じ、安静にしていても痛むことがあります。
骨折により体を支えられなくなるため、自分で立つことや歩くことができなくなります。
骨折のタイプによっては、足が外側にねじれたり(外旋)、健常な足と比べて短くなったりすることがあります。
これらの症状が見られた場合は、すぐに整形外科を受診し、適切な診断を受けることが重要です。
診断の流れ(レントゲン、CTなど)
診断は、主にレントゲン検査によって行われます。レントゲンで骨折の有無、骨折の場所、転位(骨のずれ)の程度を確認します。骨折がはっきりしない場合や、より詳細な骨の状態を確認したい場合は、CT検査やMRI検査が用いられることもあります。
【大腿骨頸部骨折の最新治療法 – 早期手術で寝たきりを防ぐ】
大腿骨頸部骨折の治療は、原則として手術が選択されます。
治療の原則は「手術と早期リハビリテーション」
この骨折で最も恐れるべきは、骨折そのものよりも、骨折を治すために長期間安静にせざるを得ないことによる全身の衰弱です。
- 長期臥床によるリスク
筋力・認知機能の低下、誤嚥性肺炎、褥瘡(床ずれ)、血栓症(エコノミークラス症候群)などの合併症を引き起こし、「寝たきり」の原因となります。
そのため、患者様の全身状態が許す限り、早急に手術を行い、できる限り早くベッドから離れてリハビリテーションを開始することが、予後を良くするための鉄則となります。
手術の種類と選択基準
骨折のタイプや、骨折した部位への血液供給が保たれているか(血行の状態)によって、最適な手術方法が選択されます。
- 1.骨接合術(こつせつごうじゅつ)
- 2.人工骨頭置換術(じんこうこっとうちかんじゅつ)
・骨折した部分を、ねじやプレートなどの金属器具で固定し、自分の骨の癒合(くっつくこと)を待つ方法です。
・比較的ずれが少ない骨折や、若年者の骨折に対して選択されます。
・骨折してしまった大腿骨の骨頭部分を取り除き、金属やセラミック製の人工の骨頭に置き換える手術です。
・高齢者や、骨折によって骨頭への血行が途絶えてしまった場合に選択されます。早期に体重をかけてリハビリを開始しやすいため、寝たきり予防に有効です。
手術をしない場合の大きなリスク
手術や麻酔に耐えられないほど体力が低下している場合や、認知症が進行しているなどの理由で、やむを得ず手術を行わないケースもあります。しかし、手術をしなければ長期の安静が必要となり、寝たきりのリスクが格段に高まるため、専門医は個々のリスクを慎重に評価し、手術の可否を判断します。
【最重要!大腿骨頸部骨折を防ぐための具体的な予防策】
この骨折は「予防」が最も重要です。以下の3点を意識して生活環境を整えましょう。
- 1.骨粗鬆症の治療と予防(栄養・薬物療法)
- 2.転倒を防ぐ生活環境の整備(バリアフリー、手すり)
- 3.筋力とバランス能力を高める運動(ロコモ対策)
・骨密度のチェック: 定期的に骨密度検査を受け、骨粗鬆症と診断された場合は、医師の指導のもとで治療薬(飲み薬、注射薬など)を服用・投与することが不可欠です。
・栄養摂取: 骨の材料となるカルシウムに加え、カルシウムの吸収を助けるビタミンD(日光浴も有効)、骨形成を促すビタミンKを積極的に食事に取り入れましょう。
転倒は家庭内で発生することが多いため、自宅の環境を見直しましょう。
・段差の解消: 敷居やカーペットなど、小さな段差でもつまずきの原因になります。可能な限りバリアフリー化を推進しましょう。
・手すりの設置: 階段、廊下、浴室、トイレなど、体勢を変える場所には手すりを設置し、体を安定させられるようにします。
・滑り止め対策: 浴室や玄関には滑り止めマットを使用し、靴はかかとが安定したものを選びましょう。
加齢による筋力低下(サルコペニア)や、バランス感覚の低下(ロコモティブシンドローム)は転倒リスクを高めます。
・適度な運動: ウォーキングや軽い筋力トレーニング(スクワット、かかと上げなど)を行い、骨に刺激を与えることで骨をつくる細胞の働きを活発にし、骨量維持・筋力向上を図りましょう。
・バランス訓練: 片足立ちなど、バランス感覚を養う運動を日常生活に取り入れましょう。
【まとめ】
大腿骨頸部骨折は、予防が最大の治療である疾患です。もし骨折してしまっても、適切な治療と早期のリハビリテーションによって、寝たきりを防ぎ、再びご自身の足で歩く生活を取り戻すことは十分に可能です。
当院では、専門医による正確な診断と、患者様一人ひとりの状態に合わせた最適な手術・リハビリ計画をご提供しています。また、骨粗鬆症の検査や治療、転倒予防のための生活指導にも力を入れています。股関節の痛みや歩行に不安を感じたら、早期にご相談ください。

